2009年11月25日水曜日

あ~、時効だったのに...

労働問題関係の話が2つ続いたので、今日は債権管理の話にします。

 消滅時効って知っていますか。
 
 これは、借金や売買代金の支払義務があっても、一定期間経つと支払わなくても良くなるという制度です。

 この一定期間というのは、商売上の貸し借りでなければ返済期限から10年、商売上の貸し借りは返済期限から5年です。

 先日、ある社長さんから、こんな相談を受けました。
「15年位前に、うまい投資話を友人に紹介したら、友人が乗り気になって、直接その投資先に2000万円くらいを振り込んだんです。しかし、その話がうまくいかなくて、なかなか投資資金がかえってこない。そこで、その友人は、私に、『お前が紹介したんだから、お前が責任を取れ!2000万円の借用書を書け』と言ったのです。あまりにしつこいので、仕方なく形だけのつもりで書いたのですが、最近になって、その友人が、この借用書をたてにとって、2000万円返せと言うのです。返さなければいけませんかね。」

 この社長さんの相談からすると、そもそも、その友人から2000万円借りたことになるのかどうか自体疑問ですが、その点で勝てなくても、消滅時効で勝てそうです。

 そこで、私が、「その借用書を書いたのはいつですか。返済期限は何とか書きましたか。」と社長さんに聞くと、「書いたのは12年位前です。返済期限は、書いた日から1年後でした。」という答えが返ってきました。

 私は、「これなら、時効でいけるかも。」と思い、さらに、「その後一度も返済していませんか。」と聞くと、なんと、社長さんから、「先日、100万円返してしまいました。」という答えが返ってきました。

 ここからは問答形式で行きます。

 私 「え~!何でそんなことしたの。」
 
 社長「相手が100万円返してくれれば終わりにすると言うから。」
 
 私 「その言葉を何かに書いてもらった?」
 
 社長「いいえ。だって、確かに言ったのです。」
 
 私 「相手が知らないといったらそれまでですよ。何も証明するものが無いのですから。領収書はもらった?但し書きは?」

 社長「もらいました。借金の返済として、と書いてもらいました。」

 私 「あ~、最悪。それじゃ、借金を認めたことになるじゃないですか。」

 この相談では、もしかすると、1年前くらいに消滅時効が成立していて、2000万円を返す必要はなかった可能性が高いのですが、社長さんが、100万円払って、「借金の返済として」と書いた領収書をもらってしまったので、消滅時効を使えなくなってしまいました。

 消滅時効というのは、消滅時効が成立した後に、相手の権利を認めてしまうと、使えなくなってしまうのです。

 長い間、請求を受けたり支払をしたりしていない借金や買い掛けがあるときは、消滅時効が使えるかもしれませんので、まず、弁護士に相談してから払ってください。

2009年11月18日水曜日

裏切り者にも賃金はあるの?

 同族会社やベンチャー企業などでよくある内紛。

 先日も、この不況の中、3年連続増収増益という会社で内紛があり、3人いる役員のうち1人と、従業員の半分以上が辞めて出て行ってしまうというケースがありました。

 この会社の社長さんから、「辞めた従業員たちから、退職直前の給料の請求があったのだけれど、うちは従業員がごっそり抜けて売り上げが落ち、大打撃を受けているのに、払う必要があるの?」という相談を受けました。

 取締役でも従業員でも、法律上は、原則として辞めるのは自由です。ですから、辞めたからといって、法律的な責任を問われることはありません。

 もちろん、辞めた従業員にも賃金は払わなければなりません。

 しかし、このケースのように、役員と従業員が示し合わせて、組織的に辞めた場合はちょっと事情が違います。

 大体、内紛が起こるのは、儲かる商売をやっている会社です。今回の社長の会社も、3年連続増収増益でした。儲かるからこそ、経営方針、役職、利益の分配の仕方などで対立が生まれるのです。

 そして、辞める側は、当然、辞めた後に同じ商売をしようとします。いや、むしろ同じ商売をして、ガッツリ儲けたいから辞めるのです。

 役員が、同じ商売をするために、多数の従業員を連れて辞めていった場合、それによって会社が多大な損害を被ったならば、会社は、役員に対して、損害賠償請求をすることが可能です。

 従業員に対して、「この会社を辞めて、いっしょにやらないか。」という勧誘は、普通は役員の在職時に行われますが、役員は、会社の利益のために行動する義務を負っていますから、明らかに会社に損害を与えるような行動をとれば、会社に対する背信行為として、法的な責任を問われるのは当然です。

 また、一緒に辞めた従業員も、この役員の背信行為に加担したのですから、その結果、会社に損害が発生すれば、損害賠償責任を負う可能性があります。

 最近、こうしたケースで、従業員の行為は会社に対する背信行為であるとして、会社の下した懲戒解雇処分を有効とし、退職金を支払わなくてもよいという判決もでています。

 辞めた従業員に対して、退職前の賃金の支払いを拒むことはできません。
 しかし、会社は、組織的にやめた従業員たちを懲戒解雇にして退職金の支払いを拒否し、さらに、損害賠償を請求するという反撃をすることが可能です。

 役員も従業員も、「みんなで辞めれば怖くない。」と思ったら大間違いなのです。

2009年11月12日木曜日

割増賃金は忘れたころにやってくる!!

 はじめまして 弁護士の大谷です。

 今日からブログを始めます。まずは、簡単な自己紹介から。

 平成3年4月に東京弁護士会に弁護士登録し、今年で弁護士18年目です。事務所は、有楽町の東京交通会館11階にある銀座第一法律事務所です。詳しくは、当事務所のホームページを見てください。

 このブログでは、日々の弁護士業務の中から、中小企業の経営に役立ちそうな情報を提供していきます。

 さて、退職金や割増賃金の請求についての会社側からの相談です。最近、このようなご相談が増えています。

 中小企業では、きちんと勤務時間の管理が行われておらず、タイムカードはあるが残業代は支払われていないというケースがよくあります。

 「うちは、小さな会社だから残業代なんて払っていないし、そんな余裕はないよ。従業員もそれで納得しているよ。」と言われる社長さんも多いでしょう。

 確かに、今在職している従業員は、社長さんと上手くいっている従業員ですから、社長さんの言う通り、「納得している。」かもしれません。しかし、ちょっとトラブルがあって辞めてしまった従業員やリストラで解雇された従業員は、そうは思いません。

 何とか、少しでも多く、辞めた会社からお金を取れないかと考えるものです。その社員が、だらだらと仕事もせずに会社に残っていたとしても、タイムカードで退社時間が記録されていると、残業代の支払いを拒否することはなかなか難しいものです。

 しかも、時間外労働には割増賃金が発生しますし、未払いの賃金には、退職日から14.6パーセントもの利息(遅延損害金といいます。)がつきます。

 割増賃金を上乗せして、退職時からの14.6パーセントもの遅延損害金をつけた残業代を、1年近く前に辞めた従業員から請求されるなどという事例もあります。

 本当に必要性があって残業していたのなら、支払うのは仕方ありません。しかし、だらだらと夜遅くまで会社に残っていたり、昼間やるべき仕事を夜に回したりして、退社時間を遅くしているというケースもあります。

 今直ぐに、やたらと残業が多い従業員がいないか、その残業は本当に必要なものなのか、その従業員は、昼間どれくらいの仕事をこなしているのか、総点検をしてみてください。